第19章 姫巫女と隠し扉の罠
四階の廊下に辿り着いたとき、扉はすでに少し開いていた。
「やっぱり……」
「スネイプはもうフラッフィーを突破したんだ」
押し殺した声で囁く二人に、シオンはゴクリと息を呑む。
予測している通りに事が進んでいることが恐ろしかった。
「三人とも……引き返すなら今だけど、どうする? 必要なら、透明マントも持って行ってくれていい。僕にはもう必要ないから」
最後の意思確認をするハリーに、シオンたちは揃って首を振る。
「バカ言うな」
「一緒に行くわ」
「大丈夫。きっと全部、上手くいくよ」
コクリと、四人は頷いた。
ハリーが扉を押し開ける。軋みながら開いた扉の向こうでは、「グルルル」と低く唸る声が聞こえる。三頭犬――ケルベロスだ。
透明マントと《摩利支天隠形法》のお陰で、ケルベロスからこちらの姿は見えていないようだが、近くを三つの鼻が忙しなく嗅ぎ回ってくる。
大きな犬の足元にはハープが置いてあった。
「なるほど……スネイプは魔法でハープを奏でて突破したんだな」
「ハープの音色が止んだから、コイツは起きたんだ」
妙に納得した様子のロンに、ハリーも同意する。
「シオン、頼む」
「……分かった」
ハリーの呼びかけに、シオンは《一反木綿》の雲河に乗ったままの状態で口を開いた。
――ねんねころりや ねんねころりや 夜空(そら)へ響け
――星を連ねて 想い重ねて 君の名 紡ぐ
一音を紡ぐごとに、ケルベロスの目はトロンとし、唸り声は段々と小さくなって、やがては床に横たわって寝息を立て始めた。