第19章 姫巫女と隠し扉の罠
「凛と澄み渡る空気……舞はたおやかで、指先一つ、髪の一筋一つまで洗練されていました。空気が、他の娘(こ)たちとまるで違った」
恥ずかしいと思った。自分の方が姫巫女に相応しいと感じたことが。彼女を見下してしまったことが。
舞に感動して、ヒマワリは息をすることすら忘れてしまっていた。
心の中の汚濁が浄められるような……あらゆる屈託を呑み込んで、優しく慰めてくれるような……そんな風に感じた。
舞台の上のシオンと目が合った気がして……柔らかく微笑みかけてくれた気がした。
「……あたくしは……救われたと思いました。もちろん、幻想です。シオンさまには、そんな気はなかったと思います。ですが、幻想で充分。あたくしは確かに救われたのですから。娘のあたくしに関心のない両親。何にもやる気が起きなくて、学校生活も勉強も、友だちつき合いもつまらなくて……生きている意味を見出せなかった。そんなあたくしの生活に……いえ……人生に、シオンさまは"色"を与えて下さったのです」
今度こそ、ヒマワリの瞳は潤み、白い頬に涙が伝った。
「ありがとう、ヒマワリ……心配してくれて、ありがとう。こんなに……わたしのことを想っててくれたんだね」
「……元より、あなたを止められるなどと思っていませんわ。あなたは鋼のように強い意志を……いえ、本当に頑固なのですもの」
わざわざ言い直す少女に、シオンは小さく苦笑した。