第18章 姫巫女と禁じられた森
「《龍宮の血を鍵と為し、異界への扉を開かん》」
ベッドへと入り、シオンは小さく呟いて目を閉じた。
深い微睡みの中で、ゆっくり、ゆっくりと意識が優しい闇へと落ちていく。
やがて瞼の裏に暖かな光を感じ、シオンは目を開けた。
『あ、姫さまです!』
「奏枝!」
ギュッと抱きついてきたのは、《覚(さとり)》の奏枝だ。
掌サイズだったが、現在は小学校低学年ほどである。
満面の笑みで抱きついてきた奏枝を、シオンもギュッと抱きしめ返した。
木造平家の住宅が並ぶ、長閑な田舎の景色。
陽は沈みかけて橙色の光を地上に注いでいるが、ここはいつだって夕暮れだ。
花畑や森が広がる、けれど生活感がどこか欠如した印象を受ける。
ここは、龍宮に仕える妖たちが住む異界。
龍宮の直系のみが、この異界に足を踏み入れることができる、聖地の一つ。
「純代(すみしろ)は来てる?」
『《一角獣(ユニコーン)》ですか? それなら今、旦那さまとお社にいるのです』
「父上が?」
シオンは奏枝と手を繋ぎ、急いでお社――龍宮神社へと向かった。この異界において、シオンやシオンの父が『家』としている場所だ。
石段を駆け上がると、キラキラと光輝く《一角獣》――ユニコーンが父の大きな掌に顔を擦りつけて甘えていた。
「父上!」
「……シオンか」
駆け出したい気持ちを抑え、シオンは奏枝の手を離し、深々と頭を下げる。
寮の得点を大きく減らし、罰則を受けたことは知らされているはずだ。