第18章 姫巫女と禁じられた森
「申し訳ありません。父上の顔に泥を塗ってしまって……それに、勝手にその子と契約を……」
「よい」
短く、父は首を振ってシオンの言葉を制した。
「お前が罰則を受けねば、この命を救うことはできなかった。それで充分だろう」
「ど、どうしてそのことを……?」
純代を助けたことは言っていないはずだ。
すると、金色の軌跡を描いて月映が現れる。
『我が話した』
「月映さま……」
その先は続かない。
父は純代を離し、シオンを呼んだ。
「シオン、よくやった」
叱責とは真逆の称賛の言葉。それに、シオンの頬から涙が伝った。
緊張の糸が解け、遅れて恐怖が蘇る。恐ろしい力を持つ影と対峙した恐怖。
魔法界に潜む、最大の恐怖と対峙したことを思い出し、震えが止まらなかった。
「父上!」
駆け寄って胸に飛び込んできた娘を、父はしっかりと受け止める。しゃくり上げて泣くシオンに、父は真剣な声で語りかけた。
「……手を引く気はないか?」
泣きながら、それでも首を縦に振って何度も頷く。
「ならば、泣くのはこれが最後だ」
「…………はい」
涙を拭いながら、シオンは鼻を啜り、顔を上げた。
「それから……」
父の声音で遠のいていく。自身の意識が浮上し、目覚めが近いことを察した。
目が覚めると、そこは見慣れた天井で、寮の自室であることを一拍遅れて認識する。
「父上……」
細い身体を抱きしめる。そこにはまだ、父の温もりがあった。
耳の奥で、父の力強く、どこか恐れを含んだ声が蘇る。
――「それから……決して死ぬな」
……分かっている。
誰も死なない。自分も、ハリーも……誰一人。
「全部、守ってみせる」
決意を新たに、シオンは毛布をギュッと握りしめた。