第5章 姫巫女と最初の友達
そこへ、車内販売の売り子が通りかかり、お菓子や飲み物を勧めてきて、ハリーがそれを全部買うと言ったときには驚いた。
バーディー・ボッツの百味ビーンズ、ドルー・ブルの風船ガム、蛙チョコレート、かぼちゃパイ、大鍋ケーキ、杖形甘草あめなど、マグルの中で暮らしていては見ることのない不思議なお菓子たち。
物珍しくあれこれ開けては驚くハリーに、ロンが色々と教えてやるが、魔法界特有のお菓子に苦手意識を持っているシオンは、顔を青くした。
特に、バーディー・ボッツの百味ビーンズは苦手だ。
本当に何でもありなお菓子で、チョコ味や薄荷(はっか)味、マーマレード味などの普通の味から、ほうれん草味、レバー味、果ては臓物味なんてものまであるのだ。
ロンの話では、ジョージは鼻くそ味らしきものに当たったことがあるらしい。
ロンは開始早々に芽キャベツ味に当たってしまった。
シオンは何度も断ったものの、結局「一つだけなら」と食べる羽目になり、紫色のビーンズを選ぶ。
躊躇いながら口に含んで噛み砕くと、覚えのある味が広がった。
「む、紫芋……かな……?」
「まだマシな味だね。ハリーはどう?」
「僕はトースト味だ」
それから、三人は百味ビーンズを楽しんだ。
辛いものが苦手なシオンが、タバスコ味に当たったときは大変だった。
口を押さえて顔を真っ赤にし、悲鳴を呑み込む彼女に、月映が怒って百味ビーンズをひっくり返したのだ。
やがて、車窓には荒涼とした景色が広がり、鬱蒼とした森や川が続く。
そこへ、コンパートメントをノックして、丸顔の少年が入ってきた。
目には涙を溜めて、泣きながら言葉を紡ぐ。
「話してるところ、ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」
ハリーが首を振り、ロンへ目配せすると、彼も同様に首を振った。
関わり合いになりたくないのか、月映は姿を消している。