第5章 姫巫女と最初の友達
「別にいいじゃない。僕だって、ちょっと前までお金も持たせてもらえなかったし、洋服だって太った従兄弟のお古だからブカブカだったし、誕生日を祝ってくれる人だっていなかったよ」
それに、とハリーは続ける。
「ハグリッドが教えてくれるまで、自分が魔法使いだってことも全然知らなくて、父さんと母さんのことも……学ばないといけないことばっかりなんだ――きっと、僕、クラスで一番ビリだよ……」
ハグリッドは、ハリーに入学の案内を届け、教材を買うのにつき合ってくれた友人なのだという。
けむくじゃらの大男だが、気が良く優しい人なのだとか。
ずっと気にかかっていたのか、ハリーは顔を伏せた。
それを見て、シオンの胸が痛む。
もし、駅で関わりを持つことがなかったなら、自分はこの先も関わりを持つことなく、父の言いつけ通りに過ごせただろう。
けれど、彼の優しさに触れ、弱さを知った今、知らん顔をすることなどシオンにはできなかった。
「大丈夫だよ、ハリー。わたしにできることなら、何でもやるから」
父の言葉を裏切ることに、いささかの罪悪を感じないわけではない。
それでも、目の前で不安に押しつぶされそうな少年を、黙って見過ごせない。
『さよう。只人より生まれし魔法使いも少なくはない。それらとそなたの出発点にさほどの違いもなかろう』
シオンを諫めることなく、月映がハリーに励ましの言葉をかける。
「そうだよ、ハリー。マグル出身の子もちゃんとやってるよ。心配ないって!」
やがて、ロンドンを出発した汽車は、どんどんスピードを上げて走った。
シオンもすっかり二人に打ち解け、時おり声を立てて笑いながら、自らのことも少しずつ話す。