第18章 姫巫女と禁じられた森
「未練はない? 後悔しない?」
再三尋ねるシオンに、ユニコーンは頬を小さく舐め、額を合わせてくる。
『シオン』
「分かりました」
シオンは拾った扇をパンッと広げた。
『……ハリー、ハーマイオニーよ。よく見ておけ。滅多に見られるものではないぞ』
「何が始まるの、ゲツエイ?」
『契約の儀だ。あのユニコーンはこれから、龍宮に仕える者に名を連ねるのだ』
ハリーに答えた月映へ、次はハーマイオニーが、「それってどうなるの?」と質問を重ねる。
『あやつは二度と、この森へ戻ってくることはできないだろう。存在が作り替えられ、今後は龍宮の所有する異界に住むこととなる』
龍宮の妖たちが待機している異界だ。
龍宮に仕える妖たちはそこで、龍宮の一族に名を呼ばれるのを待っているのだという。
「じゃあ、始めるね」
シオンは扇で軽く風を起こし、場を清めた。
「《この言葉を以て、古より受け継がれし龍宮の血脈へ汝を迎え入れよう》」
厳かに唱え、紫扇で左の掌に一線を刻み、血を流す。
血の溢れる掌を差し出すと、ユニコーンは躊躇うことなく血へ口をつけた。
「《血は契約、名は縁(えにし)。龍宮 紫苑の名の下に、新たな名を授ける――……》」
汝は無垢なる心の在り処――純代(すみしろ)。
ユニコーンの輪郭が解け、淡い光となって紫扇へと消える。一拍置いて、辺りは静寂を取り戻した。