第18章 姫巫女と禁じられた森
「このユニコーンがなぜ襲われたのか分からないのですか? それとも、惑星はその秘密を君には教えなかったのですか? ベイン、僕はこの森に忍び寄る者に立ち向かう。必要とあらば、人間とだって手を組むつもりです」
重たい沈黙が、深い森に降りる。
やがて、最初に動いたのはロナンだった。
ゆっくりとした動作でユニコーンに近づき、その背に座るシオンへ声をかける。
「ユニコーンを救ってくれてありがとう」
「あ……えっと……は、はい……」
擦れる声で礼を受け取ると、ロナンは次にフィレンツェを見た。
「フィレンツェ、あなたの言い分は理解した。もう行きなさい」
「ロナン⁉」
非難するように呼ぶベインに、ロナンは静かに夜空を見上げる。
「さっきも言ったでしょう? フィレンツェは愚かではない。今回は目を瞑りましょう。ユニコーンを救った少女に免じて」
ベインが睨むようにシオンを見たが、次いでふいっと視線を外し、二頭のケンタウルスは茂みを踏み分けて去って行った。
それを見送って、フィレンツェもすぐに動く。
「しっかり掴まって」と声を掛け、ベインたちとは反対の方向へ駆け出した。一拍遅れて、シオンの乗るユニコーンも後を追う。
「ねぇ。どうしてベインはあんなに怒っていたの? あの影はいったい何だったの?」
フィレンツェは少しスピードを落とし、ハリーが低い枝にぶつからないよう配慮をするが、質問に答えることはしなかった。
きっと、ケンタウルスは星読みが得意なのだろう。惑星や数多の星々から未来を読み取り、その未来に干渉しないことが掟なのだ。
だから、ベインはあれほどフィレンツェの行動に憤慨していた。
ハリーの危機に駆けつけたこと、ユニコーンを救ったはずのシオンをベインが睨んでいたこと。
この二つの命は、本来ならばあの場で消えるはずだったのだろう。
もちろん、悪いことをしたなどと思ってはいない。
シオンは、運命というものに絶対的な力など感じていないからだ。
仮に、一〇〇パーセント未来を言い当てることができる予言者の言葉が外れたのだとしても、外れた結果こそが運命であり、元々予言が外れていたのだと思う。
つまり、本当の意味で運命を変えるなどということはできないのだ。