第18章 姫巫女と禁じられた森
「フィレンツェ!」
汗を流して現れたケンタウルスには見覚えがあった。先ほど出会った、ロナンとベインだ。
フィレンツェは、シオンやハリーを庇うようにして一歩前に出る。
「何ということを……人間を背中に乗せるなど、恥ずかしくないのですか? 君はただのロバなのか? ユニコーンまで……」
静かな声で、けれど責めるように言うベインに、フィレンツェは自分の背に乗るハリーを示した。
「この子が誰だか分かっているのですか? ポッター家の子です。一刻も早くこの森を離れる方がいい」
「フィレンツェ、忘れてはいけない。我々は天に逆らわないと誓った。惑星の動きから、何が起こるか読み取ったはずだろう!」
「ベイン」
興奮するベインを宥めるように、ロナンが彼を呼んだ。
「フィレンツェは愚かではない。フィレンツェは自身が最善だと思うことをしているんだろう」
しかし、ロナンの言葉は逆効果で、ベインは「最善!」と嘲るように怒鳴った。
「それが我々と何の関わりがあるんです? ケンタウルスは予言されたことにだけ関心を持てばそれでよい! 森の中でさ迷う人間を追いかけてロバのように走り回るのが我々のすることでしょうか⁉︎」
苛立ちまぎれに後ろ足を蹴り上げるベインに、シオンもハリーも、ただ身体を小さくする。
彼らの怒りの標的は自分たちだ。寮の校則を破って、学校の指示とはいえ森に踏み入った。そもそもの原因は、自分たちの愚かな行為にある。
謝って彼らの怒りが鎮まるのならばいくらでも謝るのだが、きっと彼らは許さないだろう。
「このユニコーンを見て下さい」
フィレンツェは自身を乗せているユニコーンを指した。
「この森をうろつくおぞましい影に血を吸われ、死の淵に瀕していました。それを、この少女が奇跡の力で救ったのです」
「……救った?」
怪訝な表情でこちらへ視線を向けるベインに倣い、ロナンの瞳も向けられる。
二対の瞳に居心地の悪さを感じ、シオンはユニコーンの背に隠れるようにして身を小さくした。