第16章 姫巫女と真相への一歩
やがて、ハリーが急降下を止め、手を大きく掲げる。
その手に握られているのは、クルミほどの大きさの、黄金のボールだ。
スタンドが歓声に包まれた。
試合が始まって、わずか五分も経っていなかったのだ。
「すごい……こんなに早く試合を終わらせるなんて……っ!」
シェリルが珍しく表情を変えている。
それはまさに驚愕という表現が相応しいだろう。
「やった――っ! すごいよ、ヒマワリ! 今の見てた?」
「えぇ。さすが、グリフィンドール。実力で選ばれているんですもの。勝って当然ですわ」
さすがのヒマワリもムカついてはいたようだ。
得意気に口角をあげる少女に、マルフォイは悔しそうに地面に拳を打ちつけた。
グリフィンドールの選手たちが次々とグラウンドへ降り立つ。
その固まりから外れて、赤毛の少年が、シオンのいる観客席の真下へやって来た。
「シオン! 見ててくれた?」
「ジョージさん。はい、ちゃんと見てましたよ」
「デカいこと言っておいて、あんまり活躍はできなかったけど」
「そんなことない! すっごくカッコよかったです!」
長い三つ編みを揺らして首を振るシオンを遮り、ヒマワリがジョージを見下ろす。
「ジョージ・ウィーズリー。ほら、お仲間が呼んでいますわよ」
「あぁ、ホントだ。じゃあね、シオン」
軽く手を上げ、ジョージは自分を呼ぶフレッドのところへ走って行った。
「ヒマワリ……」
「あら。シオンさまったら、何か残念なことがありまして?」
『ヒマワリよ、よくやった』
「お褒め頂きまして光栄ですわ、月映さま」
金色の軌跡を描きながら現れた月映に、ヒマワリは恭しく礼をする。
シオンはがっかりしている自分に気づきながらも、その感情にまだ名前をつけられず、どこかもやもやとした『何か』だけがわだかまっていた。
それを振り切るように、少女はグラウンドへ視線を戻す。
不意にハリーの姿を見つけると、誰かが少年の小さな肩を叩いた。アルバス・ダンブルドア校長だ。
どんな言葉をかけられているのかは分からないが、きっとハリーを賞賛するものだろう。
どこか誇らしげな雰囲気を纏う少年に、シオンはホッと肩の力を抜いたのだった。
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