第16章 姫巫女と真相への一歩
時間は止まらない。
嬉しいことも、悲しいことも。楽しいことも、辛いことも。
悪夢も、憂いも……全てが平等に流れ、過ぎ去っていく。
そして、シオンがハリーに歌を教えてから数日が経ち、クィディッチの試合の日がやってきた。
獏の歌のおかげか、ハリーが悪夢を視る回数はめっきり減ったとのことで、シオンはホッと胸を撫で下ろす。
昨日、ハリーはシオンとロン、ハーマイオニーを呼び止め、「試合に出る」と宣言した。
――「スリザリンの連中に逃げたと思われたくない。試合に勝って、嗤えなくさせてやるんだ」
そう言ったハリーの緑色の瞳には、先日までの疲労や不安は見えなかった。
クィディッチの試合のために更衣室へ向かうハリーを見送り、シオンは観客席へ行こうとした。
それを、聞き慣れた声が呼び止める。
「シオン! 会えてよかった」
「ジョージさん」
ジョージ・ウィーズリーの姿に、シオンの心臓がドキリと跳ねた。
その意味も分からず内心で首を傾げている間に、ジョージはシオンに駆け寄ってくる。
「え、えっと……?」
「うん。用があったわけじゃないんだけど、姿が見えたから声をかけた」
「そうですか」
それ以上の言葉を見つけられずにいると、ジョージがシオンに手を伸ばし、黒い髪に触れた。
ビクリと身体を震わせたシオンに、彼はイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「勝つよ、今日の試合。絶対に勝てる。シオンがいれば、僕は負けない」
手首につけたブレスレット……シオンがクリスマスに、ジョージに送ったものだ。
彼はそのブレスレットに口づける。
ジョージの仕草を見て顔を真っ赤にするシオンに、彼は力強く頷いた。
* * *