第16章 姫巫女と真相への一歩
「ハリー!」
朝食を終え、シオンはハリーを呼び止めた。
「何、シオン」
声にも覇気がない。
先ほどの朝食でも、ほとんど話していないし、食事も摂っていないようだった。
「あのね、おまじないを教えようと思って。気休めにでもなれば。覚えておいて損はないから」
「おまじない?」
一つ頷き、シオンは一音一音をゆっくりと発音した。
「《見し夢を 獏の餌食と 成すからは……心も晴れし 暁(あけぼの)の空》」
「みしゆ、めを……バク?」
「うん、獏。中国の伝説の生き物で、人間が見る夢を食べるの。だから、悪い夢を見たときは、獏に食べてもらうんだ。だから、試してみて」
そう言うと、ハリーも少しは気持ちを持ち上げたようだ。
「分かった。もう一度教えて。えっと……何か紙に……」
もちろん、発音は日本語である。
英語圏に住むハリーには少し難しいだろう。
シオンは羊皮紙にペンで歌を書き、ローマ字で振り仮名、その下には歌の意味を書きつけた。
どれだけ口にしても、内容を理解していなければ言葉は意味を成さない。
「えーっと……みし、ゆめ、を……バクのえじ、きと、なすから、は……」
「……心も晴れし、暁(あけぼの)の空。今見た夢は獏の餌にしたから、心の憂いは晴れて、朝を迎えられる……ってことだよ」
ハリーの悪夢を食べてくれますように。
心優しい獏が、ハリーの心を救けてくれますように。
そう願いながら、シオンはハリーと歌を繰り返した。
* * *