第15章 姫巫女と大祓儀式
風呂から上がったシオンは、ヒマワリを自分の部屋で待たせ、廊下を歩いていた。
ハリーたちとの約束――ニコラス・フラメルについて、父に聞いてみようと思ったのだ。
知らないようなら、明日、蔵を探させてもらうことにしよう。
そう思って歩いていると、タイミングよく父と出くわした。
「シオン……まだ寝ぬのか」
「あ、いえ……少し、父上に聞きたいことがありまして……」
「申してみよ」
どうしよう……。
逡巡する娘を、父は急かすことなく静かに待つ。
それに背中を押され、シオンはキュッと一度唇を引き結び、一息に言葉を紡いだ。
「ち、父上は、ニコラス・フラメルという人をご存知ですか?」
「ニコラス・フラメル?」
怪訝そうに一瞬眉を寄せた父に、聞かなければよかったという後悔が過ぎる。
顎に手を当てて考え込む父の姿を見ながら、シオンはその場を去ることもできずに、ただ返事を待つ。
もういいです。忘れて下さい。
そう言って話を打ち切る度胸もなく、少女は服の裾をギュッと握った。
長い沈黙の末、ようやく父が口を開く。
「……それは、お前が巻き込まれていることに、関係があるのか?」
「え……? そ、れは……」
巻き込まれている。
その単語で、真っ先にハリーの姿が浮かんだ。
けれど。
シオンはキュッと唇を引き結び、心を落ち着けて父を見上げる。
「巻き込まれているわけでは……ありません。力になりたいと、思っているだけです」
巻き込まれている。
それでは、まるでハリーが悪いようではないか。
だから、そうではないのだと分かって欲しかった。
たとえ何が起こったとしても、ハリーは決して悪くはないのだ。
その渦中に自分がいたとしても、それは自ら進んで飛び込んだのだから。