第15章 姫巫女と大祓儀式
外は夜の帳が完全に降り、月明かりが舞台に注いでいた。
それだけでは暗すぎるため、鬼火たちが空中を漂い、夜の神社を照らしている。
喧騒はなく、厳かで静謐な空気が山を包んでいた。
「シオンさま……」
巫女装束に身を包んだヒマワリが声を掛けてくる。
シオンの大祓儀式を手伝うため、禊を手伝ってくれたのだ。
その後、少女の髪を結い直し、着付けをしてくれた。
今のシオンは、白衣に緋袴、千早を纏い、冠を戴き、手には紫扇と五色布がついた鈴を持っている。
名を呼んだヒマワリに微笑みかけ、シオンは舞台へ上がった。
不思議と緊張はしていない。
否、緊張はしているのだ。
しかし、その緊張は心地よく、身と心を引き締めてくれる。
――チリン……
一歩を踏み出すごとに、軽やかな鈴の音が空気を震わせた。
舞台の下では、分家筋の者たちがシオンの舞を待っている。
その一番手前には当主が、その隣には身を小さくして居心地の悪そうに、先ほど舞台の袖にいたヒマワリがいた。
分家の自分たちを差し置いて、傍系の娘が最前列にいるとは、という視線が彼女に突き刺さっているのが見えるようだった。
けれど、当主が傍にいるため、それを口にすることはできないようだ。
これならば安心だ、とシオンはこっそり胸を撫で下ろした。
舞台の最奥で、笛や太鼓を持つ楽師たちが調べを紡ぐ。
ゆったりとした楽の音に合わせ、やがてシオンはそれに合わせて鈴を鳴らした。
――シャラン……シャララン……
スッと紫扇を広げ、頭で考えるより早く身体を動かす。
生まれてからずっと、身体に染みついた動き。
腕の一つ、指の一つ、足の一つ……動かすたびに、鈴の音が空気を浄化していくのが分かった。
何をしなければならないのか、何をしたいと思っているのか。
不安や恐れも、楽しいことも嬉しいことも……今のシオンの中では全てが無となり、頭の中は驚くほど澄み渡っていた。