第15章 姫巫女と大祓儀式
『フンッ。シオンは龍宮の祭神「王龍」が見初めし「龍宮の姫巫女」。そなたが認めたとて、「王龍」が認めねばシオンは誰のもとへも嫁げん』
「はは。そうでしたね、月映様」
シオンと同じように、自分に敬称をつける当主に、月映は当然のように頷いた。
一瞬の静寂。
まるで、話題が尽きてしまったような空気が漂う。
元々、この当主は口下手な男だった。
学生時代も、友人たちの輪に入ることが出来ず、一人で浮いていた。
それを無理やり引っ張って回していたのが、ハリーの父であるジェームズ・ポッターを筆頭としたグループだったのだ。
運悪く巻き込まれて、『最悪のコンビ』と一緒に教師に怒られたのも、一度や二度ではない。
その記憶は十年以上前でありながら、月映にとっては昨日のことのようだった。
やがて、「シオンは……」と当主が呟いたことで、月映の意識が現在に戻る。
黙って先を促してやれば、彼は黒い瞳を金色の龍に固定し、続けた。
「シオンは、いかがでしょうか?」
何をもって「いかが」かと聞いているのか。
学校生活か、友人関係か、または勉強や魔法のことか。
けれど、どれもが当てはまらないと月映には分かった。
『明らかに、巻き込まれておるな』
そう。
彼が訊ねたのは、ハリー・ポッターの運命とシオン自身のことだ。
『もはや、シオンはハリー・ポッターの運命の歯車の一つとなっておる。今さら抜け出すことなどできぬだろう』
否、抜け出せたとして、シオン自身は拒むだろうが。
あれでシオンは頑固な一面がある。
そこは、死んだ母親譲りだろうが。
シオンの死んだ母親も、一度言い出したら聞かない頑固な一面を持っていた。
月映は金色の身体をくねらせて旋回し、『ククッ』と喉の奥で笑った。
『心配するな。シオンはもはや、そなたの知っているか弱い娘ではない。見ておれ……それはすぐに分かるだろう』
「そうですか……」
安心したような、誇らしいような、どこか寂しいような。
そんな複雑そうな表情をする当主を置いて、月映はシオンの許へ戻るべく姿を消した。
* * *