第14章 姫巫女とクリスマス
真冬の魔法薬学の授業は辛い。
きっと、このことは一生忘れないだろう。
生徒たちは火にかけた釜に近づき、ひそかに暖を取っていた。
吐く息は白く、指先が悴(かじか)んで、シオンの計量スプーンを持つ手は震えている。
授業は楽しいのだが、この教室だけは許容できそうにない。
そこへ、マルフォイがハリーへ近づいて何か言っていた。
クィディッチでグリフィンドールがスリザリンに勝利を収めて以来、マルフォイのハリーに対する態度はますますエスカレートしている。
特に、暴れる箒から転落しなかったことを賞賛されているのが腹立たしいようで、事あるごとに、実の両親がいないことを指摘しては嘲っていた。
今回も、帰省することなくホグワーツに残ることを嗤っているのだろう。
マクゴナガルが、クリスマスの間、ホグワーツに残る生徒のリストを作りに来た際、ハリーは真っ先に自分の名前を書いていた。
もちろん、それはハリーだけではない。
ロンやフレッドとジョージ、パーシーたちウィーズリー兄弟もホグワーツに残るとのことだった。
両親たちが、ルーマニアでドラゴンの研究をしているチャーリーに会いに行くとことで、家に帰っても誰もいないらしい。
それ以外にも、ホグワーツに残る生徒たちは少なからず存在しているのだ。
両親がいないことも含めて、ハリーが嗤われる理由など存在しない。
そのことは彼も分かっているようで、ハリーはマルフォイの言葉を無視して、『カサゴの脊椎の粉末』を計量器に乗せていた。
マルフォイの態度には、シオンもそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
何度、妖をけしかけようと考えたことか。
実際にしても良いのだが、そんなことで彼らを喚ぶのは申し訳ない気がするので、頭の中で想像するだけに留めている。
《袖引き小僧》に袖を引かれて驚き慌てふためくマルフォイを想像すると、少しだけ溜飲が下がった。