第4章 姫巫女とホグワーツ行特急列車
「さぁ、お嬢ちゃんも続いて」
「は、はい! よ、よーし……」
大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせて、シオンはカートの持ち手を握りしめ、柱へ向けて走った。
迫る柱に「ぶつかる!」と目を閉じるが、衝撃が襲ってくることはなく。
恐る恐る黒い大きな瞳を開ければ、真っ赤な蒸気機関車が駅に停車していた。
ホームの上には『ホグワーツ行特急十一時発』と書かれ、『九と四分の三』というアーチもある。
ホームは、魔法学校への入学式に向かう新入生と、別れを惜しむ家族とで溢れていた。
フクロウやネコの鳴き声がひっきりなしに聞こえ、時おりヒキガエルの「ゲコゲコ」という鳴き声も混じっている。
先頭の二両目と三両目はすでに生徒で埋まっているようだ。
最後尾のコンパートメントで、先ほどの黒髪の少年を見つける。
どこも席は埋まっていて、他に乗れる場所などない。
大丈夫、彼は優しそうな顔つきをしていた。
声を掛けたくらいで、いきなり怒鳴ったりしない。
シオンは勇気を振り絞り、黒髪の少年に声を掛けた。
「あ、あの……わたしも、座っていい……ですか?」
段々と小さくなる声に、少年は緑色の瞳を瞬かせ、微笑んだ。
「うん、いいよ。それ、君の荷物?」
「は、はい……あ、手伝いますね」
少年の荷物を運び入れるのを手伝う。
シオンの物もそうだが、決して軽いものではなかった。
少年の雪のように真っ白なフクロウは丁重に先に入れる。
それから、列車の戸口から、先に少年のトランクを押し上げる。
けれど、幼い子どもの腕力では、シオンの力を足したところで微々たるものだった。