• テキストサイズ

ハリー・ポッターと龍宮の姫巫女

第12章 姫巫女とトロール


 シオンは、手に持っていた紫扇を広げ、紙の部分で指を傷つけた。


「……――《たそがれを うれいし君は 悠久の 遠きはてまで いのりをささぐ》」


 そして、少女は血の滴る指を扇に走らせ、名を呼んだ。


「……力を貸して、《九尾》――久遠」


 九尾の妖狐。
 その中でも、久遠は神格を持つ妖怪だ。

 現れたのは、真っ白な尾を九本も持ち、同じく真っ白な長い髪から、三角の耳を覗かせる美女。
 目元を紅く化粧し、胸元を大きく広げ、豊満な胸を惜しげも無く晒した花魁のような出で立ちの彼女は、紅(べに)を引いた薄い唇の口角を上げた。

『まさか、詠唱と血だけで妾を呼びつけようとは……なんぞ急ぎの用でもあったかぇ? 愛しき、妾のシオンよ』

 久遠を呼び出すには、魔法陣と詠唱と血液を使った『正式』の手順が必要だ。
 しかし、一刻を争う今、魔法陣を用意する時間が惜しい。
 だから、詠唱である『唄』と『龍宮の血液』だけで済ませてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい……久遠」

 眉を下げて謝るシオンの顔は、青ざめてしまっている。
 手順を省いたことで、魔力――霊力を大きく消耗してしまったのだ。

『構わぬ。其方(そち)ならば許そう。それより……』

 鋭い爪を伸ばした細い指が、シオンの顎を掴む。

『この傷をつけたのは……あの、醜い鬼かぇ?』

 背筋が凍るほどの冷たい声。
 久遠から放たれた殺気は女子トイレ内を完全に満たし、高い知能を持たないトロールの動きを止めた。

 自分が向けられたわけでもないのに、シオンの後ろでハリーたち三人が震える。
/ 362ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp