第12章 姫巫女とトロール
「……と、トロールは……?」
「気絶したみたいだ」
ハリーは屈みこんで、トロールの鼻から自分の杖を引っ張り出す。
べっとりとついたトロールの鼻クソに顔をしかめ、トロールのズボンで念入りに拭き取った。
「誰かが来る前に、急いでここを……」
出よう、とハリーは続けようとしたのだろう。
そのとき、シオンの視界の端で、トロールの太い指が動いた。
「ハリー、ハーマイオニー! 逃げて!」
グレンジャーさん、と呼ばなかったことには、自分でも気づいていなかった。
ヌラリと立ち上がったトロールがふらふらと立ち上がる。
覚束ない足取りのトロールは、まるで痛む頭にイラついたように、拳を振り始めた。
――ガシャンッ! ガラーン! ガシャーンッ!
壁や床がグシャグシャに壊れているところへ、トロールが拳を振り下ろす。
どうにか、間一髪で逃れたハリーとハーマイオニーは、ロンのもとへと駆け寄った。
シオンは暴れるトロールの隙を見て、ハリーたちと合流する。
「みんな、大丈夫?」
案じる少女に、三人は頷いた。
「でも、どうする? アイツ、復活しちゃったよ!」
「ゲツエイは? ゲツエイは何かできないの? シオンの使い魔だろ!」
ロンの言葉に、金色の軌跡を描いて月映が姿を現わす。
『無理だな。枷を放たぬ限り、我に力はない』
壁を殴るトロールへ、シオンは一歩を踏み出した。
「シオン、何のつもり?」
眉根を寄せて、ハーマイオニーがシオンの肩を掴む。
その手に手を重ね、少女は微笑んだ。
「大丈夫。任せて」
ハリーとロンが頑張ってくれた。
だったら、次は自分の番だ。