第12章 姫巫女とトロール
近くに迫った棍棒からハーマイオニーを庇うために、彼女を強く抱きしめる。
棍棒の余波が掠め、シオンの頬に傷を負わせた。
腕の中では、相変わらずハーマイオニーが震えている。
「ロン、何かやれ! 何でもいいから!」
トロールの首に必死にしがみつき、ハリーが叫んだ。
ロンは反射的に杖を取り出す。
杖を使うには呪文が必要だ。
そう、思考が働いたのだろうか。
戸惑ったような表情を引き締めたロンが、長い腕を振って叫んだ。
「《ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)》!」
きっと、それが一番最初に浮かんだ呪文だったのだろう。
突然、棍棒がトロールの手から飛び出し、空中を高く上がった。
ゆっくりと一回転した棍棒は、やがて鈍い音を立てて持ち主の頭に落ちる。
ふらふらと足を彷徨わせたトロールは、ついにドサッと大きな音を立て、うつ伏せに倒れ込んだ。
その衝撃で、部屋中が強く揺さぶられる。
トロールが倒れたことにより投げ出されたハリーは、身体を震わせ、浅い呼吸を繰り返していた。
ロンは未だに杖を振り上げたまま、信じられないといった様子でトロールを見つめている。
ハーマイオニーはシオンの腕の中から抜け出し、恐る恐る倒れたトロールに近づいた。