第12章 姫巫女とトロール
引き返すハリーとロンの後ろを、今度はシオンもついて行く。
震えすぎてドアの鍵に手間取るハリーが、やっとの思いで鍵を開けると、そこではハーマイオニーが奥の壁に張りついていた。
身体を震わせる彼女は、目に大粒の涙を湛えている。
トイレの中では、トロールが棍棒で洗面台をなぎ倒しながら、ハーマイオニーに近づいていた。
「こっちに引きつけろ!」
ハリーはそう言って、壊れた蛇口をトロールに投げつける。
ハーマイオニーまで後一メートルのところで立ち止まったトロールは、大きな足音を立ててハリーへ振り返った。
「やーい、ウスノロ!」
ハリーをターゲットに変えたトロールに、今度は反対側からロンが金属パイプを投げて注意を引く。
その隙に、シオンはハーマイオニーへ駆け寄った。
「グレンジャーさん、大丈夫ですか?」
「シオン……どうして……?」
「話は後! とにかく、逃げますよ!」
シオンはハーマイオニーの手を引っ張るが、彼女は立ち上がらない。
「シオン、何やってるの⁉︎ 早く逃げるんだ!」
ハリーが急かすが、逃げようにも逃げられないのだ。
「ごめんなさい……私……っ、腰が抜けて……」
どうしよう。
そう思っている間に、シオンやハリーたちの叫び声で逆上したトロールが、逃げ場を失ったロンへ向かっていった。
「ロン!」
思わず叫んで、シオンは紫扇を振り上げた。
紫扇に施されている呪術は、霊的なモノを強制的に顕現させる術の他にも、簡易だが除霊の術も施されている。
西洋のモンスターにどれだけの効果があるかは分からないが、考えている時間はない。
しかし、それより早く、ハリーがトロールへ突進し、その太い首に飛びついた。
続けざまに、彼は自分の杖をトロールの鼻へ突き刺す。
ハリーを振り払おうと暴れるトロールが、棍棒をめちゃくちゃに振り回した。