第11章 姫巫女とハロウィーン
『シオン! お菓子をチョウダイ? じゃないと、イタズラしちゃうぞ〜!』
「ピーブス!」
大きな口を開けて、ピーブスが笑っていた。
見知った顔に、シオンは少しだけ気を緩める。
『お菓子をチョウダイ? でも、オレはモノを食べられないけどね!』
お菓子を受け取れないから、イタズラを受けるしかないということだろう。
だが、ピーブスが声を掛けてくることはお見通しだ。
シオンは懐から、特別に分けておいた金平糖を取り出し、ピーブスに差し出した。
「トリート! イタズラはほどほどにね。このお菓子ならあなたも食べられるよ。そういう“おまじない”を掛けてるから」
金平糖を見るのは初めてなのか、ピーブスはしげしげと見つめ、金平糖を受け取る。
色とりどりの星に恐る恐る触れ、それをつまみ、大きな口に入れた。
久しく何も食べていないし、その必要もない。
この身体に胃などあるのかも分からない。
けれど確かに、モノに触れ、それを口にすることができた。
それは、シオンが施した“まじない”のおかげだ。
『ん〜⁉︎ ウマイ! 何だコレ! 初めてだ! 初めてだ! スゲー!』
はしゃぐピーブスの姿に、シオンの表情も綻ぶ。
――しかし、大広間の楽しい空気は、一瞬で凍りついた。
なぜか全力疾走して大広間に駆け込んで来たクィレルは、恐怖に引きつった顔でダンブルドアの席まで行き、上ずった声で報告したのだ。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと、思って……」
そこまで言って、彼はその場で気を失った。
「と、ろーる?」
聞き覚えはある。確か、巨大な亜人種だったはず。
しかし、誰かに聞こうにも、ピーブズはもう姿が見当たらない。
そのまま、大混乱に陥った大広間で、シオンは身動きが取れずにいた。
やがて、ダンブルドアは杖の先から鋭い閃光を飛ばして叫んだ。
「――静まれ!」
空気を震わせる一喝に、教師も含め、その場にいた全員が息を呑む。
口を閉ざした一同を見渡し、ダンブルドアは冷静な声で素早く指示を出した。