第11章 姫巫女とハロウィーン
「ど、どうしよう……」
同室のメンバーが次々に魔法を成功させる中で、焦りが生まれる。
そこへ、ペアであるヒマワリが優しく肩に触れた。
「シオンさま、焦らないで。ゆっくりやりましょう? シオンさまは、少し発音が違うだけですわ。『レビオーサ』ではなく、『レヴィオーサ』。下唇を巻き込む『V』の発音です。見ていらして?」
そう言って、ヒマワリが杖を羽に向ける。
「《ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)》」
ビューン・ヒョイっと杖を動かせば、ヒマワリの羽も宙へ浮いた。
「タツガミさん、お見事です! さぁ、皆さんも頑張って下さい。ビューン、ヒョイ。《ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)》ですよ!」
褒められたことについては、あまり関心がないのか。
ヒマワリは得意になることなく、シオンを振り返る。
「さ、シオンさまも」
「うん、頑張るね! えっと……」
気持ちを落ち着けて、シオンはもう一度杖を動かした。
「うぃ……《ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)》!」
すると、羽がフワフワと机を離れ、ゆっくりと上昇する。
「あ……やった! ありがとう、ヒマワリ!」
ヒマワリの手をギュッと掴めば、彼女は嬉しそうに黒い瞳を細めた。
「そんなに可愛らしく喜んで……シオンさまのお役に立てて何よりですわ。あたくし、その笑顔が見られただけで充分満足です」
可愛らしく喜んでいるのかについては、触れないことにする。
自分で同意するのは些か気が引けるし、個人の価値観にあまり口出しをするのもどうかと思ったのだ。