第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
「生徒を見ただろう? どっちへ行った?」
『「教えて下さい」と言いな』
「ごちゃごちゃ言うな。さぁ、連中はどっちに行った?」
『「教えて下さい」って言わないなら、なーんにも言わないよ』
ピーブスは、いつもの変な抑揚のある声で話す。
「仕方がない……『教えて下さい』」
背に腹は代えられないと思ったのか。
生徒を見つけられるなら、ピーブスの言葉に従うくらい安いと感じたのだろう。
ドアに耳を押し当てながら、シオンはピーブスがニヤリと笑う様子がありありと想像できた。
『なーんにも! はははっ! 言っただろう! 「教えて下さい」って言わなきゃ、「なーんにも」言わないって! はっははのはーだ!』
腹を抱えて笑いながら、ピーブスの声が遠ざかる。
当然、そんな仕打ちを受けたフィルチが黙っているはずもなく。
ドア越しに酷い悪態を吐く声が聞こえた。
「フィルチはこのドアに鍵が掛かってると思ってる。もうオーケーだ。ネビル、離してくれよ!」
ハリーが声を潜め、ネビルに掴まれた袖を引っ張る。
何となくそちらを向けば、ネビルは上を向いたまま固まっていた。
ネビルの様子がおかしく、シオンたちの視線も自然と彼の見ているものを追いかける。
そして――ネビルと同じように固まった。
シオンたちがいる場所は、部屋ではなく『廊下』だったのだ。
それも、ダンブルドアが立ち入りを禁じた、『四階の右側の廊下』。
そこには、身の丈が天井まで届くほどの巨大な犬が立っていた。
しかも、頭は三つあり、血走ったような三対の目がギョロリと動いている。
三つの鼻は忙しなく五人の匂いをそれぞれが嗅ぎ、それぞれの口からは黄ばんだ牙が覗いていた。