第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
突然の侵入者に驚いて何も仕掛けて来なかったようだが、それももう終わりらしい。
地を這うような唸り声に、背筋へ悪寒が駆け上った。
「「うわぁぁぁあぁぁあぁぁ――――ッ!」」
「「きゃぁぁあぁぁあぁぁあ――――ッ!」」
シオンたちの悲鳴が重なり、廊下の空気を震わせる。
「月映さま、月映さま、月映さま……‼︎」
『落ち着け、シオン! 気を鎮めよ!』
落ち着いてなどいられない。
パニックに陥った頭は、少しも冷静に働いてなどくれなかった。
自分の霊力――魔力が乱れていては、使い魔である月映が力を発揮できないのだと分からないほどに。
一斉にドアノブに飛びかかってしまい、それぞれがドアノブを押したり引いたりするせいで、ドアは一向に開かない。
そうこうしているうちに、生暖かい吐息が五人に迫る。
『シオン、しっかりしろ! 奴は「ケルベロス」だ!』
月映の一喝に、ようやくシオンの頭が冴えた。
ケルベロス、という単語に、ギリシャ神話の逸話を思い出す。
瞳に恐怖を宿す少年少女の中で、シオンの大きな黒い瞳だけが澄んでいた。
軽く息を吸ったシオンは、静謐な声で歌う。
――ねんねころりや ねんねころりや 夜空(そら)へ響け
突然のシオンの歌に、迫るケルベロスの牙が寸前で止まった。
ハリーたちの視線がシオンに集まる。
効果があることを確信し、少女は歌を続けた。