第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
「みんな、ジッとして! しばらく喋らないで!」
小さな声で指示を出すと、四人はピタリと動きを止める。
シオンは神経を研ぎ澄ませ、両手中指をそれぞれの人差し指に絡め、『大金剛輪(だいこんごうりん)印』を組んだ。
「《オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ……オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ……》」
七度同じ真言を唱え、右手で左手の拳を包むようにし、『隠形(おんぎょう)印』を作る。
「……《オン・アビテヤ・マリシ・ソワカ》!」
厳かに真言を唱え終えると、周りに陽炎のようなものが立ち昇り、シオンたちを隠すように覆った。
姿を隠す、『摩利支天(まりしてん)隠形(おんぎょう)法(ほう)』という術だ。
やがて、フィルチが少女たちに気づくことなく、目の前を通り過ぎる。
その様子を見て、シオンたちはホッと詰めていた息を吐き出した。
「ありがとう、シオン。助かったよ」
ハリーの礼に、シオンは微笑む。
五人はそのままグリフィンドール寮に戻るべく廊下を進むが、再び人の気配を感じて身を隠す場所を探した。
「みんな、こっちだよ!」
シオンが小声で四人を呼ぶ。
確か、タペストリーの裂け目が抜け道に繋がっていると、双子のウィーズリー兄弟が言っていたはず。
五人がその裂け目の抜け道を入れば、出てきた場所は『妖精の呪文』の教室の近くだ。
「……フィルチはいないな……はぁ……」
ロンが、肩で大きく息を繰り返しながら汗を拭った。
「……マルフォイに……嵌められ、たのよ……ハリーたちも……分かってる、でしょう? 初めから、来る気なんか……なかったん、だわ……」
ハーマイオニーが胸を押さえながら、息を整える。
おそらく、その推測は間違っていないだろう。
フィルチが探しに来るタイミングから見て、彼に告げ口をしたのもマルフォイだろう。
とにかく、グリフィンドール寮へ戻らなければ。
ここで夜を明かすわけにはいかない。
けれど、そう簡単に事が運ぶわけもなかった。
先を進もうとした少女たちの前で、教室のドアの取っ手がガチャガチャと鳴り、何かが飛び出して来る。
ポルターガイストのピーブスだ。