第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
『シオン、警戒しろ。あの猫使いが来るぞ』
「猫使い……?」
突然現れた月映に、驚いたネビルが声を上げそうになって、ハリーとロンが押さえる。
すると、隣の部屋で物音がして、五人は一斉に身体を強張らせた。
「いい子だ。しっかり嗅ぐんだぞ。隅の方に潜んでいるかもしれないからな」
フィルチの声だ。
どうやら、ミセス・ノリスに話しかけているらしい。
心臓が凍りついて動けずにいると、ハリーが手招きをして指示を出した。
シオンはどうにか冷静さを取り戻し、ハリーの後を追って、フィルチの声が聞こえた方とは逆のドアから廊下へ出る。
それと入れ違うように、フィルチとミセス・ノリスがトロフィー室へと入る音が聞こえた。
「どこかこの辺にいるぞ。隠れているに違いない」
ブツブツと零すフィルチを他所に、ハリーは「こっちだよ!」とシオンたちを呼ぶ。
辿り着いた先は、たくさんの鎧が並ぶ長い回廊だ。
後ろからはフィルチが迫っている。
「うわぁぁあぁぁああぁぁ――――ッ!」
瞬間――極限状態に耐えられなくなったネビルが悲鳴を上げ、暗闇の中へと走り出した。
その拍子に躓き、ロンの腰に抱きつく形で鎧へと倒れ込む。
――ガラガラッ、ガッシャーンッ!
城中に響き渡る凄まじい金属音を聞きつけて、フィルチが「そこか‼︎」と声を張り上げた。
「ど、どうしよう!」
パニックで頭が真っ白になった誰かの言葉。
逃げなければならないのは分かっているが、混乱して足が動かない。
フィルチは目前まで迫っている。
『シオン!』
月映に呼ばれ、シオンの頭に冷静さが戻った。