第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
窓から注ぐ月の光が、廊下に五人の影を映し出す。
いつ、どこから、フィルチやフィルチの猫であるミセス・ノリスが出て来るかと心配で、シオンの心臓は異様なほどに脈を打っていた。
まるで、頭から足の先まで心臓になった気分である。
もしかしたら、ポルターガイストのピーブスが出て来て騒ぐ可能性もあるが、そちらはあまり心配していない。
人でないモノを黙らせることは、シオンにとっては容易である。
しかし、幸運なことに、少女たちは誰に会うこともなかった。
見つからないうちに、五人は大急ぎで四階の階段を駆け上がり、気配を殺してトロフィー室へ向かう。
月光に照らされて、トロフィー室の棚のガラスが煌めき、カップや盾、賞杯、像などが、暗がりの中で瞬いているように見えた。
誰が入って来ても分かるようにトロフィー室の両端のドアから目を離さないようようにし、マルフォイたちがどこかに隠れていて不意打ちを仕掛けてくる可能性を考えたのか、ハリーが杖を取り出す。
バクバクと鳴る心臓を持て余しながら、シオンも杖や紫扇を確かめた。
「誰もいないね……ロン、時間は?」
シオンに言われ、ロンは腕時計を確認する。
「とっくに約束の時間は過ぎてるよ。遅いな……たぶん、怖気づいたんじゃない?」
そうだろうか。
マルフォイたちの性格から考えて、怖気づくということはまずないだろうが。
怖気づいたわけじゃないなら、何か別の目的が……?