第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
「君、相当な神経してるぜ!」
あまりの言い分にロンが大声を上げてしまい、ハリーが「シッ!」と人差し指を立てる。
「静かにして、何か聞こえる」
短くハリーが言ったことで、シオンも耳を澄ませる。
確かに、暗い廊下の向こうで何かの気配が動いた。
「ミセス・ノリスか?」
もしそうなら、近くにフィルチがいるかもしれない。
姿を隠す術の準備をしなければ。
けれど、ロンの言葉は違っていたようだ。
暗闇を透かすように目を細めれば、飛行訓練で腕の骨を折って、医務室で治療を受けていたネビル・ロングボトムが、床に丸くなってグッスリと眠っていた。
シオンたちが彼に近づけば、ハッと目を覚ますと、安堵の息を吐く。
「あぁ、よかった、見つけてくれて! もう何時間もここにいるんだよ。ベッドに行こうとしたら、新しい合言葉を忘れちゃったんだ」
「小さい声で話せよ、ネビル。合言葉は《豚の鼻(ピッグ スナウト)》だけど、今は役に立ちゃしないよ。太った婦人はどっかへ行っちまった」
ロンがそう言うと、ネビルが「そんなぁ……」と肩を落とした。
「ネビル、腕は大丈夫?」
「うん、大丈夫。医務室のマダム・ポンフリーがあっという間に治してくれたよ」
「そっか……。ごめんね。もっと早く助けてあげられたら良かったのに……」
「ううん。シオンが衝撃を緩和してくれなかったら、腕の骨を折るだけじゃ済まなかったよ」
一瞬だけ緩んだ空気を、ハリーが引き戻す。
「ごめん、ネビル。悪いけど、僕たち、これから行くところがあるんだ」
だが、「またね」と立ち去ろうとするハリーの腕を、ネビルは必死の形相で掴んだ。
「置いて行かないで! ここに一人でいるなんてイヤだよ!」
ネビルが言うには、すでにこの廊下は、スリザリン寮に住む亡霊『血みどろ伯爵』が二度も通り、恐ろしい思いをしたらしい。
騒ぐネビルをハリーが押さえると、ロンが焦れたように腕時計を見る。
「とにかく、早く行かないと! もう時間がないよ!」
ロンに急かされ、シオンたちはそれぞれ周囲を警戒しつつ、トロフィー室へ向かった。
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