第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
「あっちへ行けよ!」
ロンが言い放つと、ハーマイオニーもとうとう引く気になったようだ。
「いいわ。ちゃんと忠告しましたからね。明日、家に帰る汽車の中で、私が言ったことを思い出すでしょうよ。あなたたちは本当に……」
踵を返して寮の肖像画を見た彼女が、その続きを呑み込む。
肖像画の絵から、『太った婦人』は消えていた。
どうやら、夜のお出かけに出てしまったようだ。
『太った婦人』がいなければ、合言葉を口にしても扉は開かない。
ハーマイオニーがシオンたちを振り返る。
「さぁ、どうしてくれるの?」
どうもこうも、お前が出てきたのは自分の意思ではないか。
そんなシオンの心を代弁するように、ロンが「知ったことか」と吐き捨てる。
「僕たちはもう行かなきゃ。遅れちゃうよ」
三人で周囲を警戒しながらトロフィー室へ向かっていると、なぜかハーマイオニーもついて来た。
「一緒に行くわ」
「ダメ、来るなよ」
ロンが拒絶すると、ハーマイオニーは唇を尖らせる。
「ここに突っ立って、フィルチに捕まるのを待ってろって言うの? 四人とも見つかったら、私はフィルチに本当のことを言うわ。私はあなたたちを止めようとしたって。あなたたち、私の証人になるのよ」
シオンは呆れて物も言えない。
彼女は、頭は良いのに、それ以外は少し愚かだ。
やはり、知識があるのと常識的な問題は別ということだろうか。
寮を抜け出した時点で自分たちは同罪である。
止めようとしました、など聞き入れてもらえるわけがない。
相手があのフィルチならばなおさらだ。