第9章 姫巫女と飛行訓練
ローブのマントをなびかせたハリーの姿は、とても初めて箒に乗ったとは思えない。
「す、すごい……」
「何よ、あれ……本当に初めてですの?」
呆然と呟くシオンの言葉に、ヒマワリが被せる。
風を切って上昇を続けたハリーの箒は、すぐにマルフォイと同じ高さまで昇った。
それには、さすがのマルフォイも驚いて声が出なかったようだ。
まるで飛び方を知っているように、ハリーは箒を操る。
「こっちへ渡せよ。でないと、箒から突き落としてやる」
「……へぇ、そうかい?」
気持ちを持ち直したようだが、マルフォイの顔は強張っていた。
ハリーが『思い出し玉』を取り返そうと、マルフォイに掴み掛かるように飛び出すが、彼はその攻撃を躱す。
いつしか、グリフィンドールの寮生はハリーを、スリザリンの寮生はマルフォイを応援するべく声を上げていた。
「クラッブもゴイルも、ここまでは助けに来ないぞ。ピンチだな、マルフォイ」
ちょうど同じことを考えていたらしいマルフォイが、不愉快そうに眉を寄せる。
「取れるものなら取って来いよ、ほら!」
とうとう、マルフォイはガラス玉を高く放り投げた。
取れるはずがないと思ったのだろう。
地面に素早く戻った彼は、意地の悪い笑みを浮かべてハリーを見上げている。
しかし、ハリーは高い放物線を描く『思い出し玉』を追いかけて飛んだ。
身体を前屈みにし、箒を下へ向けて垂直降下を始める。
「「「ハリー!」」」
そう叫んだのはシオンであり、ロンであり、シェリルであり、他のグリフィンドールの寮生全員だった。
やがて、スピードを上げるハリーが、その手に『思い出し玉』を握る。
どうにか地面スレスレで体勢を戻し、衝突は免れたようだ。
そのことに、シオンたちはホッと胸を撫で下ろす。
ゆっくりと地上へ降りてきた彼を、シオンたちは歓声を上げて迎えた。