第9章 姫巫女と飛行訓練
だが、感動で幕を引けるほど、この話は簡単なものではなかったようだ。
「ハリー・ポッター……!」
感動に水を差すように、珍しく慌てた様子でマグゴナガルがやって来た。
どうやら、一連の事件を見ていたらしい。
「まさか――こんなことは、ホグワーツで一度も……」
ショックで上手く言葉が出ないらしい彼女は、呼吸を落ち着かせながら言葉を紡いだ。
「……よくもまぁ、そんな大それたことを……首の骨を折ったかもしれないのに――」
ハリーを責めているのか。
シェリルがハリーを庇うように前に出た。
「マグゴナガル先生。ハリーは悪くありません。ハリーはネビルの……」
「お黙りなさい、ミス・ヒルトージュ」
「でも、マルフォイが……」
ロンが続こうとしたが、マグゴナガルは「くどい」と切って捨てた。
「ポッター。さぁ、一緒に来てもらいますよ」
マグゴナガルがせかせかとした足取りで歩き出し、ハリーは重たそうに足を引きずりながらそれに続いた。
「ハリー……」
心配そうにシェリルが呼ぶ。
「ハリー、本当に行くの?」
行く以外の選択肢がないことを知りつつ、それでもシオンは聞かずにいられなかった。
「仕方ないよ……」
「行くことないわ。それなら、マルフォイも連れて行くべきよ」
「そうです。もともとはマルフォイくんが悪いんですから」
「えぇ。ハリーだけが罰則を受けることなどありませんわ」
チラリとマルフォイを見れば、彼だけでなく、クラッブやゴイル、スリザリンの寮生たちがニヤニヤと勝ち誇った笑みが目に入った。
「ポッター、早くしなさい」
「はい……ごめん、みんな。僕、行かなきゃ……」
マグゴナガルに急かされ、ハリーがついて行く。
ハリーは何も悪いことなどしていないのに。
どうして、こんなことに……。
頭を過る後悔と無力な自分への自己嫌悪に、シオンはスカートを強く握り締めた。