第3章 姫巫女とサカキの杖
「げ、月映さま、お知り合いですか?」
『この店は古い。我はあれの幼少の頃も、先代も先々代も知っておる』
「…………」
それからしばらくして、オリバンダーが戻って来る。
細長い箱は随分と仕舞ってあったのか、かなりの埃を被っていた。
老人が箱を開ければ、そこには一振りの杖が収められている。
細身の、金色を帯びた美しい杖だ。
「手に取って、振ってみて下され」
「て、手に取って……えっと……」
恐る恐る手を伸ばして杖を取り上げると、ジワリと温もりを感じた。
まるで、初めて触れたとは思えないほど、手にしっくりとくるのだ。
言われた通りに、左から右へ杖をゆっくりと振る。
すると、金色の軌跡が描かれ、それはクルクルと旋回し、パンッと弾けて黄金の粒子を降らせた。
「おぉ……ブラボー! 素晴らしい!」
手を叩いて喜ぶオリバンダーに、シオンは気恥ずかしくなって肩を縮める。
『やはりな。シオンにはその杖しかないと思っておったわ』
「サカキに龍のヒゲ、十七センチ。もう千年近く持ち主が見つからなかった」
「せ、千年……」
気の遠くなる年月に、頭の処理が追いつかない。
『その杖は、龍宮の初代姫巫女が使っておったものだ。引退と同時にこの店へ預けた。しかし、それからお前が手にするまで、杖を使えた姫巫女はおらん』
「そんな……どうして……」
「杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。そのサカキの杖が求めるのは、清廉で穢れがなく、神聖な者」
「で、でも……わたしは……っ!」
そんなに大層な人間ではない。
気が弱い、ただの臆病な人間だ。
そう言おうとした少女を、月映が『シオン』と遮る。