第9章 姫巫女と飛行訓練
握り方を一通り確認したフーチは、生徒たちを箒に跨らせ、首に掛けていたホイッスルを構える。
「さぁ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って下さい。箒はぐらつかないように押さえて、二メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになって、すぐに降りること。笛を吹いたらですよ。一、二の……」
瞬間――緊張していたからか、一人だけ置いてけぼりを食らわないように気を張っていたのか。
ネビルは教師が笛に口をつけるのも待たず、思いきり地面を蹴ってしまった。
彼の箒は彼を空高く持ち運び、物凄い勢いで飛ぶ。
「こら、戻ってきなさい!」
フーチの大声を上げて呼びかけるが、そんなことができるならばとっくにやっているだろう。
ネビル自身も、混乱から教師の声どころか、シオンたち生徒の悲鳴も聞こえていない。
どうしよう、どうにかしなきゃ!
けれど、シオンの頭もネビルと同じように混乱し、上手く働かなかった。
そうこうしている間にも、ネビルの箒は上昇を続け、彼は真っ逆さまに落ちる。
ハッと我に返ったシオンは、懐から紫扇を取り出した。
「《一反木綿》――雲河(うんが)! お願い、ネビルを助けて‼︎」
現れたのは白い布の妖怪だ。
空を飛んでいても、布切れが飛んでいるようにしか見えないだろう。
雲河は素早く飛び、バキバキと木の枝を折って落ちるネビルを受け止めた。
箒はと言えば、誰も乗っていないにも関わらず、一人で『禁じられた森』の方へと消える。