第9章 姫巫女と飛行訓練
シオンはチラリと自分の隣に横たわる箒を見下ろした。
古い箒のようで、ところどころササクレており、小枝が何本か飛び出している。
古い物は好きだが、自分の身を預けて空を飛ぶことを考えれば、不安しかない。
グリフィンドールとスリザリンが向かい合わせに立つ間を歩きながら、フーチは生徒たちに指南を始めた。
「右手を箒の上に突き出して、《上がれ!》と言う。さぁ、やってみて」
生徒たちは声を合わせ、一斉に叫んだ。
「「「《上がれ》!」」」
しかし、シオンの箒はコロリと地面を転がっただけで、手に収まることはなかった。
周りをこっそりと見れば、先ほどの掛け声で上がった箒は多くない。
ハリー、シャーロット、シェリル……マルフォイの箒は上がったようだ。
朝食の時間に声高らかに『クディッチ今昔』の内容を話していたハーマイオニーや、箒で空を飛んだ経験のないヒマワリは、シオンと同じような反応。
ネビルとマリアの箒にいたっては、ピクリともしなかった。
そういえば、飛行訓練が決まった日、双子のウィーズリー兄弟が言っていたではないか。
箒は馬と同じで、気持ちが伝わりやすい。
ネビルもマリアも、箒に乗るのが怖いと、声に出ている。
ならば、怯えを捨て去れば、応えてくれるのだろうか。
シオンは軽く深呼吸をして、もう一度言ってみることにした。
「《上がれ》!」
すると、箒がスッと浮き、シオンの小さな手に収まる。
やった、とシャーロットたちの顔を見れば、彼女たちが微笑んでくれる。
マリアは変わらず、念仏のように「《上がれ上がれ上がれ……》」と唱えていた。
あれでは、いつまでも応えてくれないだろう。
やがて、箒から滑り落ちないようにまたがる手本を見せてもらい、フーチは箒の握り方の指導に入った。
そんな中、箒に乗るのが得意だと自慢していたマルフォイが真っ先に注意を受けたことで、ハリーやロンが嬉しそうにこっそり笑ったのは言うまでもない。