第9章 姫巫女と飛行訓練
「何の騒ぎです?」
沈黙を破ったのは、騒ぎを聞きつけて来たマグゴナガルだった。
エメラルドのローブを翻しながらやって来た厳格な魔女に、ネビルがマルフォイの持つ『思い出し玉』を指さす。
「先生、マルフォイが僕の『思い出し玉』を取ったんです」
いくらマルフォイでも、教師相手では分が悪いらしく、彼は「見ていただけです」と言って素早く玉をテーブルに置いた。
「覚えてろよ、ルシアーノ」
去り際にシャーロットへ耳打ちし、マルフォイはクラッブとゴイルを従えて去って行った。
その後ろ姿を見送り、シャーロットは肩の力を抜く。
「すみません、マグゴナガル先生」
「何もなければ構いません。あまり騒ぎすぎないように」
気をつけます、と眉を下げる彼女に、マグゴナガルも去って行った。
「し……シャーロット?」
シオンが恐る恐る名前を呼べば、彼女はいつも通りのふんわりとした笑みで応える。
「ごめんなさい。やりすぎちゃいました」
「全然。むしろ足りないぐらいだわ」
「シャーロットは何も悪くない」
すかさず、マリアとシェリルがフォローした。
「うん、わたしもそう思う。でも、シャーロットはすごいね。あんなにはっきり、自分の意見を言えるなんて。わたし、何もできなかったよ」
友達が侮辱されたのに、一番に動くことができなかった。
「シオンさまが落ち込むことなんてありませんわ。今回はたまたま、シャーロットが早かっただけ。マリアはもちろん、あたくしだって、シェリルだって、マルフォイの言葉に腹を立てています。その気持ちに違いなんてありませんもの」
「ヒマワリちゃんの言う通りです……と、言いたいですが、私も反省しています。とっさに叩いてしまいましたけど、暴力はよくないですね。今度謝らないと」
「謝る必要なんてないよ」
ハリーがシャーロットの言葉を否定すると、ロンも続く。
「そうそう。むしろ、もう一発殴ってやればいいんだ。それも、グーでね!」
ロンが握り拳を振るう真似をし、みんなが声を立てて笑う。
そんな話をしながら、朝食の時間は過ぎて行った。
* * *