第9章 姫巫女と飛行訓練
「マルフォイくん。それはネビルくんの物です。返して下さい」
「ルシアーノか。ウィーズリー家と同じ、純血のくせにマグルやマグル生まれの魔法使いの肩を持つ、『血を裏切る一族』だ」
マルフォイの言葉に、ロンも眉を寄せる。
そんな彼の瞳が、マリアに向いた。
「クレイミー家も不運だったよな。純血の家系だったのに、一族の当主が反対を押し切ってマグル生まれの魔女と駆け落ち。クレイミー家も終わったってみんなが言ってるよ。ほんと、どうかしてるぜ」
「何ですって⁉︎」
両親を侮辱されてマリアが憤る。
けれど、それより早く動いた人物がいた。
――パンッ!
乾いた音が響き、近くにいた生徒たちが動きを止める。
その現場を目撃した人物たちは、あまりの光景に動くことができなかった。
シャーロットがマルフォイの頬を叩いたのだ。
「マリアちゃんに謝って下さい」
静かな怒りを秘めた翡翠の瞳は、まるで森に陰を落としたように揺れている。
「貴様……誰に手を上げたか分かっているのか⁉」
赤くなった頬を押さえて叫ぶマルフォイだったが、シャーロットは怯むことなく受け止めた。
「どうかしているのは、マルフォイくんの方です。あなたが本当に誇り高い純血の一族なら……だからこそ、もっと周りに気を遣うべきです」
「品格の低い人間と馴れ合うつもりはない」
「どうして、血で人を判断するんですか。純血だろうと、半純血だろうと、マグル生まれだろうと関係ありません。マグルの中にだって、魔法使いに劣らない功績をあげている人もいます。私の家は確かに純血ですが、私は自分が偉いだなんて思ったことは一度もありません。もっと、それよりずっと大事なことがあるって、知っているからです!」
純血だから誰かを傷つけて許されるわけでも、マグル生まれだから貶されて当然というわけでもない。
人を傷つけていい人間なんていないし、弱者が虐げられる理由なんて存在しない。
そう、シャーロットは続けた。
静かな怒りの中に確かな激情を宿した彼女は、睨みつけてくるマルフォイを正面から見据えた。