第9章 姫巫女と飛行訓練
「おはよう、ロン、ハリー、シオン」
「どうしたんだ? みんな妙に落ち込んでるな」
談話室を通り掛かったのは、双子のウィーズリー兄弟だ。
「おはようございます、フレッドさん、ジョージさん。実は……」
話す気力もないハリーと、それを慰めるロンに代わり、シオンは飛行訓練のことを話した。
「なんだ、そんなことか」
「箒に乗るのなんて簡単だよ」
こともなげに笑う二人だが、シオンは笑うことはできなかった。
「そうですね」と同調することができるはずもなく、「そんなことないです」と言うだけの材料もないのだ。
「箒は馬と同じで、気持ちが伝わりやすいんだ。怖がれば乗せてくれないし、飛んでもくれない。そこさえ克服すれば、後は簡単だ」
「問題があるとすれば、学校の箒だよな。変な癖持ってるヤツばっかだから」
「癖、ですか?」
聞き返せば、ジョージが「そうそう」と頷く。
「高いところに行くと震え出す箒とか、少しだけ左にズレて飛ぶ箒とか」
それは、箒として問題があるのではないだろうか。
初心者である一年生に使わせて大丈夫なのか。
「まぁ、僕らにやらせれば、これくらいの箒、乗りこなすのは楽勝だけどね」
「乗れなかったら、僕らが教えてやるよ」
去って行く二人を見送り、マリアに声を掛ける。
「マリア。乗れなかったら、フレッドさんとジョージさんが教えてくれるって。せっかくだし、教えてもらおうよ」
「話しかけないで、シオン。今、飛行訓練を受けなくて済む言い訳を考えてるから」
「…………」
強い責任感から真面目なはずのマリアが、どこか虚ろな目でぶつぶつと言っている。
「シオンちゃん、そっとしておきましょう?」
「今のマリアには、何を言ってもムダ」
「下手なこと言うと、こちらに飛び火してしまいますわ」
「そ、そうだね……」
これ以上は何も言うまい。
それから木曜日まで、マリアはずっと暗い空気を引きずっていた。
* * *