第9章 姫巫女と飛行訓練
はっきりに言えば、スリザリンの寮生は苦手だ。
何かあればこそこそと囁き合い、少しでも失敗すれば嗤う。
特に、最初に電車で会った、ドラコ・マルフォイは酷かった。
できれば、口を利きたくもない。
スリザリンと同じ授業を受けるのが『魔法薬学』だけなのは、せめてもの救いだった。
スリザリンの寮監というだけあって、担当教師であるスネイプも苦手だが、授業はとても興味深いし、悔しいことに分かりやすかった。
ハリーにいちいち意地の悪い態度を取らなければ、もう少し好感が持てるのに。
学校生活に慣れ始めた、ある日の朝。
グリフィンドールの談話室にある掲示版に、授業に関する知らせが貼られていた。
曰く――。
――『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です』
シオンはショックで言葉も出なかった。
その隣では、ハリーが同じように、この世の終わりのような表情で嘆いている。
「あぁ、終わった……僕はマルフォイの目の前で箒に乗って、あいつに嗤われるんだ……!」
悲しいのはシオンも同じだ。
シオンは生まれて十一年、箒に乗ったことがないのだ。
空を飛ぶのに箒が必要なかったことが大きい。
必要があれば、空を飛べる妖怪《一反木綿》に頼めばそれでよかった。
同室の彼女たちと飛行について話したことがある。
ヒマワリはシオンと同じで、箒に乗った経験はないようだ。
ちなみに、一番その話題に食いついたのはシェリル・ヒルトージュだった。
彼女は大のクディッチファンで、ロンともよく盛り上がっていた。
箒にも詳しく、空を飛ぶのは得意なようだ。
シャーロットも、両親に教わった程度ではあるが、宙に浮くくらいならできるらしい。
青い顔をしていたのは、マリアである。
彼女は幼い頃に木から落ちたことがきっかけで、高所恐怖症なのだそうだ。
空を飛ぶ必要性を感じられないと頭を抱えていた彼女は、現在、シオンの隣で放心している。