第12章 太宰弟
劉娥side
薔薇様は僕に向かって攻撃する筈だった。
僕を…殺すつもりだった。
然しそれは出来なかった。
主「光影様…どうして?」
目の前には深く刃の刺さった主…光影がいた。
僕はそこで初めて…彼が僕を守ってくれたという事を知った。
命を犠牲にしてまで。
主「光影様!」
幻「聞きなさい、劉娥…。」
僕は倒れた光影に寄り、光影の僅かな声を聞いた。
幻「私は、此処で死ぬだろう…。君は……兄の元へ行きなさい。そして…姉を…怒りから、解放、して…あげ…て……。」
だんだん小さくなっていく呼吸音に僕は久し振りに涙を流した。
彼は最期に…僕にこう言った。
幻「大きくなったね…今まで…ありが、とう」
この後に光影が再び目を覚ますことはなかった。
嫌だ…こんな簡単に…サヨナラなんて…絶対に嫌だ……
薔「予想通り。劉娥を狙えば我が愚弟は必ず助けに入る。それを使えば私が光影を殺せるなんて容易い。」
薔薇は笑いながら話している…僕の中で次第に怒りと憎しみが沸いてきた。
そして何かが…プツンと切れて……僕は、意識を失った。
太宰side
森「立派な最期でしたよ、幻条光影殿。」
劉娥のいたマフィアの首領が死んだ。
劉娥を庇って死ぬなんて…余程劉娥を大切に思っていたに違いない…。
然し気になるのは劉娥の方だ。
幻条が死んだ後から微動だにせず、唯一人俯いている。
太「劉娥…?」
主「……ぃ。」
彼は何かを呟いたが、私には何も聞こえなかった。
薔「何か言ったかしら?」
何も知らない私達には近づくことは出来なかったが、薔薇は劉娥へ近付いて行った。
主「絶対に…許さない……。」
途端に劉娥の目は焦点を合わせないまま…薔薇へ向けられた。
その目はまるで…獲物を求める獣のようであった。
森「太宰くん、1度彼から離れた方がいい。」
確かに今の劉娥は敵味方の判断すらつかない程に混乱していた。
薔薇は近くにいたということもあり、その覇気に圧倒されている。
薔「何よ、私を許さないですって?それなら私を如何するつもり?殺せるものなら殺してみなさいよ。」