第12章 太宰弟
主「……」
劉娥は終始無言のまま薔薇の方へ歩みを止めずに進んだ。
太「…劉娥、如何したんだい?」
話しかけても無言。
どうやら今の彼の目には薔薇しか映っていないらしい。
薔「降参する気になったかしら?私は貴方も許さないけどね。」
____________異能力『薔薇山』蔦刀
薔薇は劉娥に向かって蔦の様な刀を振りかざした。
その時確かに聞こえた…劉娥の本当の声が。
主「光影様を……返して…。」
その声は涙を含み……震えていた。
まるで何かに縋る子供のように…。
一瞬劉娥の頬を涙が伝っているのが見えた。
主「俺の…光影、様を……。」
薔「まだ私の愚弟に縋るつもり?彼奴はもう死んだのよ!あんたが居たせいでね!!」
主「うるさい!」
劉娥は私と戦っていた時とはまた違う…何処か遠くを見ているような目で彼女を見た。
恐らくあれは彼ではなく…何か別のもの。
しかも劉娥の一人称は「僕」だった筈だし。
主「異能力___________『火怨』!!!」
彼が言葉を発した直後…炎が薔薇の蔦刀を襲い、燃やし尽くした。
薔「これは…?あんた、異能力を使えないと言っていたじゃない!」
私もそれには驚いた。
幼い頃から異能力を使えたのは私だけで、劉娥は異能力者では無かったはず…なのに如何して今異能力を使えるのだろうか?
森「良いときに来たようだね、太宰くん。彼、たった今異能力に目覚めたようだ。」
動揺している薔薇の隙を突き、劉娥は薔薇の腹を蹴飛ばした。
主「お前は…光影様に……永遠に苦しめられればいい。そして…地獄で詫びろ。」
その言葉を最期に…劉娥は薔薇に異能力を使い、薔薇は炎に焼かれて死んだ。
その後直ぐに劉娥も、糸が切れたかのように地に倒れた。
太「劉娥!!!」
私は劉娥までもが死んでしまったのではないかと心配になって駆け寄った。
森「太宰くん、彼を連れて拠点に戻ろう。」
太「…はい。」
私は劉娥を抱えて森さんについて行った。
拠点につくまでの間…私の脳内は劉娥でいっぱいになっていた。
ここ迄が……劉娥が私と離れている間の記憶。