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夕暮れとひとつの秘密

第1章 1


頭の中で3回くらい桃城の言葉を繰り返す。
フラれちまった。思ってたのと違ってたんだってよ。俺が。

「……あの、彼女の話?」
「もう元カノなんだよなあ……」
おどけたような声色で桃城は認める。
その、ふざけているような言い方が、苦しさをもっとずっと表していることに気づいているのかどうか。
真緒がかける声に悩んでいるうちに、桃城はぽつぽつと話し始める。

一目惚れだったこと。
話しているうちにもっと好きになったこと。
笑顔が可愛くて、元気づけてくれるようなパワーがあったこと。
何をしてても、どんな話をしても、とにかく好き
だったこと。

「俺はホント好きなんだけど、あっちはそうじゃなかったんだよなぁ……」
とりとめもない話の最後、体を起こした桃城の言葉が、心を突き刺して、抉っていくようだった。



私だって。
私だってそうだよ。
今でも、

今でも。



桃城の話が途切れても、真緒はそこを動けずにいた。
桃城も、席を立つ気配はない。
顔を合わせた直後よりは顔色が良くなってきてはいるが、立ち直ったようにはとても思えなかった。
時折、桃城の視線が真緒の表面を撫でていく。
その視線は、真緒がここにいることを拒否しているわけではない。かといって、許容されているでもない。
オブジェでも見ているようなその視線に、真緒は座りの悪さを感じる。

「なあ」
「ん?」
「小野寺さ、俺のお願い聞いてくれね?」
随分と長く無言の時間を挟んで発された桃城の声は、だいぶ普段の様子に戻ってきたように聞こえる。
聞こえるからこそ、奇妙な違和感がくっきりと浮かび上がっているようにも思えた。
直感的に、お願いは聞かないほうがいい、という思いがよぎる。それでも、
「お願い?」
真緒は、桃城が好きだから。
何でも聞いてあげたいと、思った。

「おう。あのさ」
「うん」

「今だけさ、
あいつの、かわりになってくれよ」
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