第10章 愛しているから
遼side
「うぐっ・・・いたい・・・」
遥が足を押さえながら起き上がろうとする。
「よく見てください。目の前にいるのは紛れもなく、あなたの愛している人です。」
そんな・・・だって今俺を・・・
「遼くん・・・ごめんね・・・」
その顔は俺の知っている遥だった。
「僕・・・ずっと・・・待ってたよ・・・」
先程の殺気立った顔とは違って、穏やかで優しい表情をしていた。
中原は今にも倒れそうだ。
息が荒い。
「どうして邪魔をする。中原。」
「俺は・・・この人の部下だ・・・」
「裏切ったな。」
「裏切ったも何も・・・初めからごめんだよ。」
「そうか・・・だったらもう用済みだな。」
猪田が中原に向けて銃を構える。
中原は既に覚悟が出来ているようだ。
「じゃあな。」
銃声が響く。
だが、中原は倒れることなく、猪田の手から銃が離れる。
須賀野が猪田の手を撃ったのだ。
「くそっ!」
猪田は中原を殺すのは諦め、遥を人質に取る。
首元に遥が持っていたナイフを突きつける。
「ひっ!」
「そいつはほっといてもどうせ死ぬ。この餓鬼だけはお前の目の前で死んでもらう。」
「猪田!もうやめろ!俺が悪かった!」
「謝っても無駄だ!過去は戻ってこないんだよ!お前も分かってるはずだ!」
「うっ!・・・」
遥の首に刃が食い込み血が滲み出ている。
「そうだ、確か・・・こいつの兄弟だったか?お前もこの餓鬼が好きなんだろ?愛する人が死ぬ所、特等席で見せてやるよ!」
拓真に遥を見せながら叫ぶ。
「やだ・・・拓真・・・見ないで・・・」
「んっ!んー!」
「なんて言ってるのか分かんねぇよ。外せ。」
猪田の手下が拓真の口元を自由にする。
「止めてくれ!遥は何も悪くねぇだろ!」
「そうだな・・・まぁ、あの男に関わったのが最悪だったな!」
「いっ!」
「「遥っ」」
遥の顔が痛みで歪む。
「いい!その顔だよ!愛する人が目の前で死ぬ!どんな感情だよ!?なぁ!?」
「頼む・・・遥を殺すなら、俺を殺してくれっ・・・」
「「拓真っ!」」
あいつは何言ってるんだ・・・
1番無関係なはずだ・・・
「お前がいない世界なんて耐えられない!」
「ふーん・・・中々面白い。」
猪田が手を上げると拓真の後ろに立つ手下が銃を頭に突きつけた。
「拓真!」