第10章 愛しているから
拓真side
遥が連れて行かれた後、俺は手を後ろに縛られ口も塞がれた。
中原さんには何もせずそのままだ。
動かない。
「立て。行くぞ。」
どこに行くんだ?
何も抵抗出来ずに腕を引かれる。
着いた場所は天井が吹き抜けになって夜空が見える広場だった。
俺達が閉じ込められていた場所と同じ広さだ。
という事はここはさっきの場所の真上?
少しすると、遥を連れて猪田さんが来た。
「んー!(遥!)」
「無駄だよ。」
っ!
遥・・・?
遥の目は死んだように澄んでいた。
正気を失ってる。
薬・・・
薬はどこ行った!?
確かポケットに入れたはずだ。
どこかで落としたか?
まずい。
このまま坂間さんに会ったら・・・
遥・・・目を覚ましてくれ!
「はい、これ。分かってるね?」
そう言ってナイフを渡した。
あのナイフ、何か刃に塗ってあるな。
「遥!」
「っ!?」
坂間さんと須賀野さんが息を切らして入ってきた。
「やぁ・・・待ちくたびれたよ。」
「猪田!遥と拓真を返してやれ!2人は関係ないだろ!」
「関係あるね。特にこっちのΩの方。」
猪田が遥の耳元で何か囁いている。
言葉に反応して坂間さんの方をじっと見つめた。
ナイフを握りしめる。
まさか・・・
遥が坂間さんの方へ歩み寄る。
「遥・・・待たせてすまない。」
「んんー!(逃げろ!)」
「拓真?」
首を何度も左右に振りながら訴える。
違う!そいつはあんたの知ってる遥じゃない!
逃げろ!
坂間さんにはナイフが見えてないのか、俺の言いたいことが伝わらない。
「何・・・言って・・・うっ!?」
「っ!」
遥は何の躊躇も無く、坂間さんの腹をナイフで刺した。
「は・・・る?」
「・・・た・・・い・・・」
「?」
「あんたのせいだ!!」