第10章 愛しているから
中原side
「・・・出ないな・・・」
姉に電話をかけるが出ない。
そろそろ着いてもおかしくない。
先に中に入っておこうとドアノブに手をかける。
・・・静か過ぎる。
ここを開けると全てが終わる予感がする。
さっきまでの弾んでいた気持ちとは打って変わって、重い恐怖心が溢れていた。
いや、気のせいかもしれない。
意を消して扉を開ける。
「・・・た、ただいま・・・」
返答がない。
玄関は散らかっている。
嫌な予感は当たった。
リビングに入ると父の身体はボロボロ。
母と姉は縛られて動けない状態だった。
俺を待っていたかのように、複数人の男と猪田が。
「父・・・さん・・・母さん・・・姉ちゃん・・・」
姉は怯えていた。
体を震わせている。
「智哉・・・か・・・」
父が口を開いた。
ほとんど力が残っていないようだ。
「あははは・・・おかえり、智哉くん?」
「・・・どうしてここに・・・」
「どうして・・・ねぇ・・・見ててイライラするんだよね。家族?恋人?友人?・・・こっちの世界でよく呑気にやれるよな。」
分かってる。
この世界に入るのにはそれなりの覚悟がいることは。
だから、こんなことも覚悟していた。
けどなんで俺らなんだよ。
「・・・お願いします・・・家族を離してください。」
俺は床に頭を付け土下座をした。
こうするしかもう方法は無いんだ。
「本当に無様だね。愛?・・・そんなの・・・この世で1番いらない。」
父の胸にナイフを突き刺す。
「うぐっ!」
「父さん!!」
「ひっ!」
姉が顔を青くする。
こんなの見せてられない。
「お願いしますっ・・・家族だけはっ・・・何でもしますから・・・」
「何でも・・・ねぇ・・・いいよ。」
「っ!じゃあ!」
「ただ、こっちにも条件があるんだよね・・・全員は無理・・・かな(笑)」
そんなっ!
不敵な笑みを浮かべると父は何度も何度も刺された。
そして、母も拘束を解かれたかと思うと父の横に押さえつけられ、同じように何度も刺された。
「いやっ・・・やめてっ・・・もうやめて!!」
姉は泣き叫んでいた。
俺はその状況を止めることも、泣き叫ぶこともできなかった。
ただ見ているしかなかった。
「とも・・・や・・・お姉ちゃんを・・・頼んだ・・・」
父はそう俺に言った。
母もその言葉に頷いた。