第10章 愛しているから
中原side
その後はパトカーが来た為、俺達はその場を後にした。
「智哉、お前はその傷を治療してから帰れ。父さんは先に家に戻ってる。」
「分かった。・・・父さん、その・・・ごめん。」
「・・・いい。寧ろ礼を言いたい。お前が居なかったら今頃こうやって話が出来なかっただろう。ありがとう。」
「・・・うん。」
俺達は急いで引越し、しばらくは俺も父も家に帰らなかった。
それから1ヶ月経っても何も起きなかった。
坂間さんが手を打ったみたいだ。
この街は俺達の組のものになり、研究していた薬と記録を全て破棄した。
猪田も姿を消した。
どんな手を打ったのかは知らない。
俺達は普通の暮らしに戻りつつあった。
「智哉、俺の班を持たないか?」
ある日、父から提案された。
「どうして?俺はまだここに入ったばっかりなのに。」
「実は争いが終わったら抜けようと思ってたんだ。父さんだけじゃなく、他の奴らも。仲間を多く失い過ぎた。」
「・・・そっか。分かった。」
「それにお前はαだからな、父さんより上手くやれるだろう。」
「なんか、ヤクザっぽくないよね、ここ。」
「・・・そうだな。」
「・・・そこがいいんだけどね。凄く仲間思いって言うかさ。・・・俺、父さんの分まで頑張るよ。」
それから、俺は父さんの後を継いだ。
始めは何もわからず全く功績を収められなかった。
それも父さんが影で支えてくれた。
何もかもが上手く行っていた。
そう思っていた。
「・・・あ、姉ちゃん?帰りは何時になりそう?」
『 今終わったから・・・30分くらいかな。』
「分かった。俺も今終わって帰ってるから。」
『 おっけー。なるべく早めに帰るね。』
会話を終え、電話を切る。
その日は父の誕生日だった。
こんなのは柄じゃないけど、仕事の事もお世話になってるし、俺らを守ってくれてるからたまにはこういうこともしないと。
プレゼントを持って家に向かう。
その時の俺は珍しく気持ちが弾んでいた。
こんな事は初めてかもしれない。