第8章 Shall we dance、LittleLady
そして空いた手でパチンと指を鳴らすと何かをする為に作られたスペースを囲うポールが氷の美しい彫刻になる。そしてもう一度指を鳴らすと異常な重圧が身体中にのしかかり、幾人かの人々が片膝を付く。
「チェリー…!!!何をしている!?」
お父上もこの行動には予想外らしく焦燥に満ちた表情を浮かべる。
『今片膝を付いた者は早う去ね。妾は弱い者を婿に迎える気も…弱い者に嫁ぐ気も無い』
そう言うチェリーの目は酷く冷たかった。
『この彫刻の内側は更に強大な重力をかけてある…と言っても魔導書を使用してないから10分の1程度。たかがこの程度で這いつくばる等、妾の旦那どころか魔法騎士の風上にも置けぬとゆめゆめ忘れるな』
静かに立ち上がると長いドレスの裾を引き摺りながらゆっくりと階段を降りて彫刻の内側に入ると綺麗に結われていた髪の毛が重力に耐えきれず落ちる。その髪に装飾されていたアクセサリーが地にめり込む。
『この中でも軽やかに妾と踊れると言う殿方のみ婚約の契に応じよう』
※※※
一同「…」
全員がたじろいでしまうのも無理は無い。髪の毛の装飾品が床にめり込むくらいの重力の中で普通に踊るのは無理だろう。踊れる人が居たとしても一曲踊りきれるか危うい。
「成程…チェリーも考えたものだな」
「姉上!?」
「あの中で踊りきれば婚約だけでなく魔法騎士としての実力を示す事も出来る」
いつの間にか背後に立っていた姉上が感心した様に頷く。
「戻られてたんですね」
「無論だ。チェリーの婚約者が決まる重要な夜会だからな」
あたかも初めから知ってた様な口振り。
「さっさと行かんか莫迦者」
「えっ!?」
「どの意味でも他の者に遅れをとる事は許さん」
そう言われて周り見ると数十名が彫刻の周りに集まっていた。そして彫刻の内側に入った瞬間に膝を付く者も居る。無論そうなれば踊れないのでシェリーから引き摺り出される。
『残ったのはコレだけか。まぁ想定内っちゃあ想定内だけど思ったより人数多いな』
そう言って小首を傾げる姿はいつものあどけなさは無く、妙に色っぽい。
『言っておくけど踊りきれたからと言って婚約者にならなくても良いからね』
「「「!?」」」