第8章 Shall we dance、LittleLady
「そいやぁヴァンジャンス、お前も夜会参加すんの?貴族だろ?」
「今朝、家に招待状は届いていたよ。だが…」
「「?」」
「僕などがお邪魔するのは烏滸がましいだろ?」
何をそんなに気にしてるのかコイツは謙虚過ぎる。
「…んな事ねぇよ。息抜きだと思って参加すれば?」
「じゃあ俺もー。美味い飯出るんだろ?」
「ヤミは姉君の護衛として参加しろよ」
「「護衛?」」
魔導書を授かった時の茶会の時の様に賊の襲撃が無いとも言えない。正直、姉君を色んな意味で狙ってる輩は多いし姉君の秘密は死守しなければならない。だから味方は多い方がいい。
※※※
『あー…無理しんどい』
パタリと事切れた様に広間のソファに横たわる。二日後に控えた夜会に向けて礼儀作法の見直し、数多のドレスの試着。社交ダンスの練習に身嗜みの強制。仕事を休んでまでも徹底的にする完璧主義者の両親と御目付け役にこってり絞られて目が回っていた。
「姫様、ハーブティーで御座います」
『あー…うん…』
メイドが容れてくれたお茶に口を付けながらダンスの流れを頭の中で思い出していると、ふとメイドが口を開く。
「旦那様は何をあんなに焦っていらっしゃるのでしょうか?」
『そうね………』
このメイドはフミ。アタシが赤ん坊の頃からアタシに仕えてくれてる有能なメイド。歳はアタシよりも15歳程上のベテラン。お隣のハート王国出身だけどとてもエリートな魔法騎士でもある。つまりは………
『一刻も早く跡継ぎが欲しいんじゃないかな』
「だとしても急過ぎます…姫様にはお心に決めている殿方はおられないのですか?」
『そんなの居ないって』
「あれだけ素敵な殿方が沢山いらっしゃるのに?」
素敵な殿方?このお姉さんは一体何を仰ってるのかな?
「王族であるヴァーミリオン家の長男やシルヴァ家の長男、貴族のヴァンジャンス家の者やユリウス団長なども素敵かと存じますが?」
『………変な事言わないでよ』
※※※
そして夜会当日。
手入れされた庭には魔法具のイルミネーション。中央にある大きな噴水は盛大に水しぶきを上げてイルミネーションのせいでとてもカラフル。両端にはノンアルコールの飲み物と茶菓子。そして少し離れた所に子供が遊べるスペース。