第1章 Nice to meet you、Girl
女も感情的な生き物。アタシは大人では無いけどもう子供でも無い。無闇に怒ったり泣いたり怖がったりしない。ゆっくりと後ろを向くとうなじに触れていた冷たい指先が喉元まで辿る。侵入者を見上げると意味が分からないと言った表情でアタシを見下ろす。
『………10人』
「!」
『最低でもこの屋敷全体はアタシの領域。ペラペラと喋ってくれて有難う。楽に感知出来たわ』
-きゃあぁぁぁあ-
『ほら…アタシを誘拐するんでしょ?誘拐してみてよ』
テラスの手摺に体重を預け、そのまま倒れ込む様に背から身を乗り出す。この高さから落ちたら?うん、間違い無く死ぬよね。死ぬなら死ぬでいいけど別に心配はしてない。
※※※
あちこちで急に倒れる人々。近くの人に駆け寄って確かめる。外傷は全く無い。ただ顔色は凄く悪く小刻みに震えていて唇は鬱血した様に紫色。
「あー…なるほど」
「シェリー?」
「今倒れてる人を捕獲して下さい!!侵入者です!!」
「何故分かる?」
「姉君の能力だ。んで肝心な姉君は…」
この広い屋敷で賊を感知し、ピンポイントで倒す優れた感知能力とコントロール…そしてこの魔法…一体どんな魔法を使うんだ?
「きゃあぁぁぁあ!!!」
「人が落ちてくるわ!!」
「姫様!姫様だ!!」
月明かりに照らされて落ちる姿がスローモーションに見える。とても綺麗で呼吸すらも忘れてしまう。
「アイツか…姉君の事頼んだ!」
「「は!?」」
※※※
落下しながらも侵入者から目を逸らさない。焦燥に満ちた顔。面白い顔してるなぁって思ってると、弟のシェリーが侵入者を捕らえる。あれ、落下してるアタシは放置なの?とかちょっと妬いていたら、ポヨンとクッションみたいなものに身を包まれる。
『………』
水…?水にしては少し独特な色な気がする。
-つん…-
-パァン-
『ひゃっ』
つついたら大きな音を立てて弾けたクッションに吃驚して固く目を瞑る。この高さからなら死なないけど、落ちたらお尻は痛い。
-とさっ…-
『痛…くない?』
「お転婆なお姫様ですね」
『!』
「淑女たるもの、もう少しお淑やかになさっては?」
魔導書を閉じるシルヴァ家の長男。抱えてくれるのはヴァーミリオン家の長男。