第1章 Nice to meet you、Girl
裾の長いドレスがはしたなく捲り上がるのも気にせずシェリーの尻に見事な足蹴りをする。
『機密事項だった事をペラペラ喋るな』
「加減!手加減してくれない!?」
『口の軽い男はモテないわよ』
「いやそれ関係無いし、過去形だろ!?」
『口は災いの元よ』
呆れながらに言うとくるりと背を向けて歩き出し、思い出した様に小さく声をあげるとサラサラの髪の毛を揺らしながら、コチラを振り向く。
『ゆっくりして行って下さいね』
誰かが言っていた。天使の様だ、と。その笑顔は本当に天使の様だった。
※※※
『あーもー疲れた!』
窮屈なドレスを脱ぎ捨てて楽なワンピースに着替える。窓を開けてテラスに出れば下の方ではまだ茶会が賑わっている。空を見上げれば月が登り始め星が瞬く。空はこんなにも美しいのに人間は醜い。
『何がウチの息子どうですか、だよ。ふざけんな』
「だよねぇ…僕もそう思うよ」
『でしょ?初めて会った人と結婚なんて考えられる訳無、いじゃ………?』
アタシは今、誰とお話をしているの?
-ひやり-
と冷たい手がうなじに触れる。
『部屋の外には使用人がいる。どうやって入ったのかしら?』
「僕の能力だよ。姿も気配も魔力すらも消せる」
『変態な能力ですこと』
綺麗な空を見上げたまま考える。アタシの背後に立つ侵入者は何が目的なのか。果たして一人なのか。後者はNO。どんな目的にしろ、こんな人数だし魔法騎士も多い。一人で侵入するのは馬鹿のする事だ。
『目的は?』
「シャネル家の秘密を暴く事…つまりお姫様の誘拐だ」
『………』
「とある情報だと………君はシャネル家の最高傑作なんだろう?幼い君にはキャパオーバーでそのコントロールが出来なかった…だからずっとその存在を機密にされていた」
『………』
「やっとコントロール出来るようになって、こうして民衆の前に立つ事が出来たんだろう?もっと外の世界が見たいとは思わないか?」
外の世界って何だろう。
『一つ、訂正させてくれるかしら』
「?」
『コントロールは生まれつき得意なの』
「え?」
この膨大な魔力がキャパオーバーなのは事実。だから気を抜くと…感情的になるとすぐ暴走する。だって子供って感情的な生き物でしょ?